浚渫窪地と干潟

埋立地を作るために海底の土を採取(=浚渫(しゅんせつ))した跡が浚渫窪地。
東京湾など、日本全国の埋立地がある周辺の海底に膨大な数が存在し、深刻な環境問題を引き起こしていることがわかってきた。平成13年と14年には、愛知県の三河湾にある六条潟という干潟でアサリが全滅するなど、干潟の生物の大量死事件が続発。これが、この浚渫窪地が原因だとわかってきたらしい。
浚渫窪地は、周辺の海底より数m深く、場所によっては20m近くもあるそうだ。海水は、浅いところほど温かく、軽いという性質があるため、この窪地には冷たく重い海水が溜まることになり、海流の影響を受け難い状態となる。このような状態になると、十分な酸素の供給が無くなり、ほとんど無酸素状態となることによって、硫化物を含む生物のいない死の世界となるのです。そして、この硫化物を含む無酸素状態の海水が、台風などの影響により窪地から溢れ、干潟などの生物を死滅させたそうだ。表面の海水温が上がる夏場に多く発生する「青潮」も、この海水が原因と考えられているらしい。
さらに、浚渫窪地に囲まれた干潟では、海浜流が断ち切られ、干潟への砂の供給が止まり、干潟の侵食が大きな問題となっている。「海のゆりかご」と呼ばれる干潟は、多くの生物にとっての大切な生活場所であると共に、海の浄化を担うという重要な役目もあり、干潟の減少は海の環境に深刻な影響を与える。
そんな中、六条潟のある三河湾では、昨年、この浚渫窪地のひとつを埋め戻す工事が行われた。そして1年後、死の世界となっていた海底に、海藻やイソギンチャク、カニなどの生命が戻ってきていました。窪地を埋め戻すことにより、生態系が回復することが証明されたのだ。ただし、埋め戻すには大量の土と費用などが掛かり、現実的にはかなり無理があるようだ。何せ、東京湾の膨大な埋立地だけを見ても、恐ろしい量の窪地が東京湾の海底にあるわけで、埋め戻すには、気の遠くなるような年月も必要だろう。
それでも、干潟の浄化能力、生命のゆりかごとしての重要さがわかってきた今、戦後から次々と埋め立てられて姿を消した干潟を、これ以上失わせないようにすることと、少しずつでも干潟の再生を続けていくことが、海に囲まれたこの国の将来を豊かにすると考えます。